【アメリカ】政府閉鎖とは何か?なぜ起こったのか?【2019政府閉鎖】
日本でもよくニュースになってたアメリカ政府の部分閉鎖 (US Government Shutdown)に関して纏めたいと思います。かなり長い記事になってしまったので、目次から適当にピックアップして読んでください。前半部分はアメリカの一般的な政治制度について、後半部分はトランプ政権の状況についてです。
予算案とは国を運営する上で必要なお金の割り振り(〇〇ドルをコレに使い、〇〇ドルをアレに使うなど)を決めるもので、議会で与党と野党が話し合って作ります。これが決まらないと、国がどれだけお金を持っていたとしてもそれを使うことが出来ずに機能不全に陥ります。つまり、省庁や軍隊から国立公園の管理まで、国のお金を使う全てのものが、場合によっては停止することになります。
今回の政府閉鎖の原因は、簡単に言えば、メキシコとの国境に大きな壁を建設するための費用を予算に組み込みたい与党側と、それを阻止したい野党側とで話し合いが決裂したことです。
- 一般知識1:アメリカの政治制度
- 一般知識2:予算案の決め方
- トランプ政権1:選挙公約
- トランプ政権2:中間選挙
- トランプ政権3:予算案を巡る攻防
- トランプ政権4:政府閉鎖の影響
- 最新情報(2019/02/12)
一般知識1:アメリカの政治制度
アメリカは上院(100名、任期6年)と下院(435人、任期2年)からなる二院制です。上院の任期は6年ですが、6年ごとに選挙が行われる訳ではなく、2年ごとに議員の三分の一ずつ改選していきます。つまり、連邦議会(日本でいうところの国会)では、上院下院どちらも同時に2年ごとに選挙が行われます。
例えば2016年〜2020年のトランプ大統領の任期を例に取れば、
2016年:大統領選挙、連邦議員選挙(上院の1/3、下院全員)
2018年:連邦議員選挙(上院の1/3、下院全員)→通称「中間選挙」
2020年:大統領選挙、連邦議員選挙(上院の1/3、下院全員)
というようなスケジュールで選挙が行われることになります。4年に一回めちゃめちゃ大きな選挙が、その中間に一回まあまあ大きな選挙が行われると考えてください。
一般知識2:予算案の決め方
アメリカの会計年度は10月1日から翌年の9月30日です。カレンダーではもちろん1月1日が一年の始まりですが、予算に関しては一年が10月に始まるということです。
よって、予算案は10月1日より前に承認され、法案化される必要があります。
まず、大統領が議会に対して予算教書を提出します。これはあくまで大統領が「こんな感じの予算を通してくれるとありがたいです」という意見のようなものです。その後の流れとしては、
①予算案の方針作り
- 教書を参考にしつつ、上院下院それぞれで予算の方針を審議して可決
- 可決された二つの方針を調整して一本化
- 一本化された調整案を上院下院それぞれで審議、可決
②予算案作り
- 予算案の方針に沿って、議会の各委員会が予算案を作成
- 作成された予算案を上院下院それぞれで審議、可決
- 可決された予算案を大統領に提出、大統領が署名
というような感じです。見て分かるように非常に複雑で時間がかかります。大切なのは、最後の部分、議会で可決された予算案を大統領に提出というところです。
大統領が大人しく署名してくれれば一件落着、予算案の成立となりますが、大統領は拒否権を持っているので、「この予算案には納得できない!」となれば
- 拒否権発動
- 上院下院で再び審議、両方で2/3以上の賛成が得られれば予算案成立
という新たなプロセスが踏まれることとなります。もうみなさんお察しでしょうが、今回の政府閉鎖はトランプ大統領の拒否権発動によって起きたことです。
トランプ政権1:選挙公約
「アメリカとメキシコの国境に大きな長い壁を建てる(メキシコがその費用を負担する)」というのが、トランプ大統領(候補)が選挙期間中に最も強調していたマニフェストの一つです。トランプ大統領の"Make America great Again", "America First"というモットーに基づけば、不法移民の厳しい取り締まりは当然かと思われますが、それにしても果たして壁を建てることに意味があるのか・・・というのが議論になっていました。
大統領就任から2年が経ち、野党だけでなく与党内部からの批判も受けて壁の建設は一切進んでいません。(2019年2月現在)
それでも彼は建設を諦めてはおらず、今回の閉鎖も壁の費用を予算に組み込みたいトランプ側とそれを阻止したい野党側との攻防によって起きたものです。
トランプ政権2:中間選挙
2016年の大統領選挙時には、共和党(与党)が上院で55議席、下院で237議席を確保してどちらでも過半数を占めていたのですが、2018年11月の中間選挙の結果、下院における過半数を民主党(野党)に奪われてしまいました。
とはいえ、どちらの党も2/3以上の議席を確保するには及ばびませんでした。先に述べたように、大統領の拒否権が発動した際に必要となるのは2/3以上の賛成ですから、それほどの力は与党も得られなかったということになります。
トランプ政権3:予算案を巡る攻防
本来なら10月から実行されるはずの予算案の話し合いがまとまらず、12月までの臨時の予算が組まれた状態でした。それが失効するまでには本来の予算案がまとまるだろうというのがその時の予想でした。しかし・・・
トランプ大統領は壁建設関連の予算約500億ドルを要求しましたが、民主党はこれに反対。壁を含む国境のセキュリティ対策として160億ドルまでなら出せると譲歩したものの、お互いそれ以上は譲らずに期限である12月21日を迎えてしまい、政府が一部閉鎖状態となりました。
その後も話し合いは続き、大統領はコンクリートではなくより安価な金属の壁にするという譲歩の姿勢を見せてみたり、非常事態宣言をして無理矢理にでも費用を確保すると脅してみたりと民主党に対抗しましたが、膠着状態は続きました。
2019年1月になると、共和党内からも「とりあえず数週間分の臨時予算を通して政府を再び動かすべきだ」という声が上がり始めましたが大統領は動かず。
もし共和党が上院下院共に過半数を確保していて、尚且つ党員が皆団結していれば、希望通りの予算案が作成され、大統領もそのまま署名したでしょう。また、可能性は低いですが、もし民主党が上院下院ともに2/3以上の議席を持っていれば、大統領の拒否権を跳ね返すことができたでしょう。
1月25日に、両党は三週間の臨時予算を通して閉鎖を一時的に解くことで合意しました。これにて、歴代最長35日間の政府閉鎖が終了することとなります。しかしながら、この三週間で本当の意味での合意が得られなければ、また政府が閉鎖状態に陥ることとなります。
トランプ政権4:政府閉鎖の影響
今回の政府閉鎖は、FBIを含む9つの政府機関に影響を及ぼし、80万人以上の公務員の給料の支払いがストップしたと言われています。また、少数民族への補助金やホームレスの人々への援助などが停止することで失われた命もあるようです。給料の不払いを理由に仕事を休む人が増えて、 警備職員不足で空港のターミナルを封鎖さざるを得なくなったり、博物館や国立公園が休業したりと、外国人観光客にも無関係な話ではなかったかと思います。
最新情報(2019/02/12)
共和党と民主党は、壁建設に関連する費用137.5億ドルを予算に組み込むことで決着をつけ、新たな政府閉鎖を阻止することに決めたようです。これは約55マイルのフェンスを建設するのにやっとな金額ですので、最初は200マイルのコンクリート壁の建設を要求していたことを考えれば、トランプ大統領がかなり譲歩する結果になったというって良いでしょう。
参考